2004年スマトラ沖大地震 バンダアチェ地震被害調査速報
〜 アンケートによる地震動強さの評価 〜Riki Honda, Yoshikazu Takahashi, Mulyo Harris Pradono, Rudi Kurniawan
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第0.1版 : 2005-04-11
第0.0版 : 2005-04-02
はじめに
2004年12月26日にスマトラ沖で発生した大地震によって甚大な被害を受けたバン ダアチェで現地調査を行った.調査は,京都大学大学院 教授 家村浩和先生を団 長として,2005年2月28日〜3月7日の日程で行った.(調査団の一部は,スリラ ンカまたはタイ国にも調査に訪れている.その場合の日程はこの限りではない.) その調査の一環として,バンダアチェにおける地震動強さを検証するために,ア ンケートによる震度(気象庁震度)の調査を行った.ここでは,その結果を報告 する.
バンダアチェには観測所があるが,当日の地震動の評価において,その記録は利 用が不可能であった.写真に示すように測候所においての記録は完全に振り切れ ている.津波による被害が甚大であるためにその被害が多く方面の関心の中心に なっているが,復旧戦略の策定などのためにも,地震動強さの評価が望まれると 考えられる.そのため,本調査では,実績のある手法であるアンケートによる震 度評価を行い,地震動強度を評価することを試みた.
アンケート震度調査の期間と参画したメンバーは以下の通りである.
- 調査日時:2005年3月1日〜3月6日(バンダアチェ滞在期間)
- メンバー:
- 本田利器(京都大学 防災研究所 助手)
- 高橋良和(京都大学 大学院 都市社会工学専攻 助手)
- Harris Mulyo Pradono (京都大学 大学院 都市社会工学専攻 研究員)
- Rudi Kurniawan (シャクワラ大学 講師)
バンダアチェの観測所
地震当日の強震記録(完全に振り切れている.)
被害の概要
地震動に関するアンケートに先立ち,市内の被害程度の概要について調査を行っ た.ここでは,地震動に関する観点から,要点のみを簡潔に整理する.
グランドモスクのそばのホテルと木造平屋のホテルの比較の写真にも見られるよ うに,構想のコンクリート構造物が被災しているのに対し,平屋のホテルはほと んど被害はみられていない.近くの給水塔も基部近くで曲げ破壊が生じているこ とが見て取れる.
低層の軽い家屋が,かならずしも耐震性が高いとはうかがえないにも関わらず, 比較的小さい被害で済んでいるのに対して,3階以上のRC構想物が比較的大きい 被害を受けている例は他にも見られた.
大きく被災したRC構造物と,それに接する木造家屋(ホテル)
基部に曲げによるひびが見られる給水塔.
沿岸部から2km程度内陸側に入った,地震前には住宅地であった地域において観 察する.木造家屋の場合,しっかりとした基礎が無い場合も多く,この場合は形 跡が残らない.基礎が残っているRC建物でも,家屋は跡形もなく流されている被 害が多い.これは,基礎に固定されていた強度が小さいことを意味するものと考 えられる.また,残された基礎を観察すると,沈下や破損などが少ないことが観 察される.これは,地盤は比較的固いということを意味すると考えられる.ただ し,他の班によれば,海岸部では液状化らしきものを見たという報告もあったの で,沿岸部では必ずしも地盤が良好であったとは言えない.
基礎が残っているが,基礎に「残った」柱は見当たらない.津波による甚大な被害を受けた沿岸部では,被災した構造物も含め,全てが流さ れてしまっているため,多くの事例は見られない.津波によって流されずに残っ ていた被災家屋を見ると,地震動による破壊とは異なるモードであることがうか がえる.地震動で破壊したのであれば,柱の基部が損傷を受けることが多い.写 真に見られるように,柱の中央が折れ曲がっているのは,津波または津波により 運ばれた瓦礫等が衝突することで破損したものであると推測される.
中央部分が折れ曲がる被害を受けている柱.周囲の家屋は全て流されてしまってもモスクは残っているという事例は少なくな い.地元のエンジニアに聞いた話では,設計の時の安全率(強度の余裕)が,一 般家屋に比較して大きく,また,施工も丁寧である,ということが理由であろう ということであった. 経済的な問題は別にすれば,もう少し強度を有する家屋を作ることも可能な建設 技術を有しているということが推測される.
地盤条件が良かったこと,耐震性が高くなかったと推定される家屋の破壊形態等 からも,一般家屋に影響を与える周波数帯の地震動は,津波の被害から想像され るほどは強いものでなかったと考えられる.
また,この地震がマグニチュード9という非常に大きい地震であり,バンダア チェは震源から255km離れていたということからも,長周期成分が卓越してい たことが推定される.
アンケート震度調査
概要
アンケート震度調査とは,太田ら[1]が提案した方法論である.被災地域 での住人へのアンケートに基づき地震動強さ(気象庁震度)を評価する手法であ る.着想は素朴なものであるが,兵庫県南部地震(1995)をはじめし,グジャラー ト地震(インド,2001年),バム地震(イラン,2003年)を含む海外の地震等, 多くの地震に適用された実績を有し,信頼性も高い.詳細は論文を参考にされた い.論文にはアンケートの質問項目も列挙されている.
調査方法
現地においてアンケートを実施するため,アンケートの英語・インドネシア語訳 を作成した.インドネシア語訳は京都大学にポスドクとして在籍中であった Pradono氏に作成していただいた.
作成したアンケートの英語/インドネシア語版をここにおいておく.
調査に当たっては,バンダアチェ市内をA〜Hの8地区に分割した.そのほか, 大きな津波被害を受けたセメント工場(地区 I),気象庁の測候所(地区 J), Kuerung Raya港そばの海岸部(地区 K),Meulaboh(地区 L)の4地区におい ても調査を行った.合計で12地区となる.バンダアチェ市内における地区A〜K の位置は地図に示される通りである.
Section Description A Jl. Mohammad Daud Beureueh, from monument in front of the Pante Pirak Pasaraya to Polres. B Jl. Mohammad Daud Beureueh, from Polres to the River Krueng Titi Panyang. C Jl. Tengku Nyak Arief, from the River Krueng Titi Panyang to Jl. Laksamana Malahayati. D Vinicity of Dayah Raya (Makam Syiah Kuala.) E Vinicity of Alue Naga. F Vinicity of Kajhu (Kecamatan Darussalam kabupaten Aceh Besar.) G Vinicity of Kecamatan Meuraxa. H Vinicity of the Grand Mosque. I Vinicity of the cement mill (factory). J Meteorological observation station. K Damaged area in the west of Krueng Raya Port. L Meulaboh.
調査結果
評価された震度を下に示す.
本手法では,なるべく多くのアンケートを実施することが好ましい.しかし, アンケートをする際に,用紙を渡すだけではなく口頭による補足的な説明が必 要であったためにかなり時間がかかった.そのため,アンケートの実施枚数は 限られている.アンケートの解答数が特に少ないMeulabohやセメント工場のデー タの精度は低いと考えられる.また,マグニチュード9という地震はアンケー トの回答の分析の式を作成した時点では想定されていなかった.地震規模の大 きさによる長周期の卓越の影響程度についても考慮すべきであろう.
Section JMA Seismic Intensity Number of Data A 5.5625(6-) 14 B 5.4816 (5+) 19 C 5.5163 (6-) 14 D 5.4990 (5+) 13 E 5.5057 (6-) 14 F 5.7889 (6-) 25 G 5.3594 (5+) 22 H 5.6006 (6-) 15 I 4.9208 (5-) 5 J 5.1829 (5+) 24 K 6.1382 (6+) 4 L 5.6590 (6-) 5
Figures in the parenthesis denote "shindo."
さいごに
2004年スマトラ沖大地震により被災したバンダアチェの地震動について,アン ケートによる地震動強さの評価等を行った結果について簡単にまとめた.実施 できたアンケート数は多くないため,その精度については限りがある.あくま で参考としてではあるが,他の様々な研究や,支援活動の一助になれば幸であ る.なお,本報告の内容は,著者ら個人の見解であり,京都大学等の見解では ないことを付記しておく.ご意見,ご指摘等があればご連絡をお願いいしたい. (連絡先: )
現地調査においては,Banda AcehのMaxsalminaさんのご一家に大変お世話にな りました.また,アンケートの英語版・インドネシア語版の作成に当たっては, 山口大学の村上ひとみ先生にも情報をいただきました.お礼を申し上げます.
最後に,この地震及び2005年3月28日に発生した大地震で命を落された方々の ご冥福をお祈りし,また,被災した方々の生活が一日も早く復旧されることを 願います.
参考文献
- 1
- 太田裕,後藤典俊,大橋ひとみ「アンケートによる地震時の震度の推定」,北海 道大学工学部研究報告第92 号,1979. (なお,第二著者の 後藤先生のホームページ から,PDFで入手でき る.)
以上.(文責 本田)
この文書について...
2004年スマトラ沖大地震 バンダアチェ地震被害調査速報
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