平成15年十勝沖地震 被害調査報告

第0版 (アルファ版3): 2003-10-27

第0版 (アルファ版2): 2003-10-20

第0版 (アルファ版1) : 2003-10-19

はじめに

 平成15年9月26日 早朝 4:50頃,北海道十勝沖を震源とするマグニチュード8.0の地震が発生した.気象庁により「平成15年十勝沖地震」と命名されたこの地震は,浦河町,幕別町,釧路町,静内町,鹿追町,豊頃町,厚岸町等において震度6を記録し,十勝平野を中心として多数の被害を生じさせた.同地震の被災状況などについて現地で調査を行ってきたのでその結果を報告する.
 なお,この地震は,震源域やマグニチュード等の特徴が,1952年に生じた十勝沖地震と類似していることも指摘されている.そこで,当時との被害の違いや類似性にも留意して調査をすることした.しかし,構造物の種類や構造,材料等が50年前とは大きく異なっており,例えば構造物の耐震性ははるかに向上している.したがって,定量的な比較は困難であったが,気が付いた点等については適宜言及した.
 調査の期間と同行したメンバーは以下の通りである.  なお,文中で()内の番号は写真の番号を示しています.写真は書く文章のすぐ下に置いてあります.

調査報告

まとめ

 今回の地震の被害は,近年に世界で発生した大地震に比較すれば小規模なものであった.マグニチュード8.0という大きい地震による地震動を,比較的近い距離で被った事を考えれば,多くの構造物は高い耐震性を発揮したといえる.被害はあるものの,設計として想定している地震動が合意事項であるとすれば,多くの構造物はそれを越える地震動に十分耐えたと言え,耐震設計の成果が出たものと評価されよう.
 被害に共通して見られる点として,なんらかの原因があると思われるものがほとんどである,ということがあげられる.(そんなのあたりまえだ,とおしかりを受けるかもしれないが).被災した構造物の多くは,地震動が増幅しやすい地形や埋め戻し地盤,地盤条件や構造条件の変化部,等の悪条件下にある.これは,「よくある条件」下での耐震性はそれなりに実現できるが,「特別な条件」に対応できないという,経験工学であるといわれる耐震設計の問題点を示唆しているように思える.このような「特別な条件」下での構造物の耐震性を確保する(またはあえて確保しないことによる合理性を示す)ための技術開発が望まれよう.
 今回の地震被害と1952年十勝沖地震の被害を比較すると,定性的にはいろいろな類似点が見られる.構造物の基本的な材料や設計などに起因し,耐震性能も大きく異なっていることを考えれば直接比較はできないが,それを差し引いても,例えば,被災場所や被災パターンに,ある程度の類似性は認められる.これは,震源断層や大深度地下構造,表層地盤構造,地形条件,地質条件等の多くの要因を反映した地震の「個性」であると思われる.このような「個性」は,現在の地震学や地震工学では十分には評価できないものである.したがって,将来の地震に起因する被害を予測するにあたって,過去の地震被害を省みることが有効な手段であると言えよう.被害評価においては,過去に大きい被害を生じさせた地震,その被害場所,被害形態等を十分に学び,その知見を最大限に取り込む「温故知新」の姿勢が重要であると考えさせられた.
 繰り返しになるが,今回の地震の被害は,比較的近海で生じたマグニチュード8.0という巨大地震による被害としては小さいものであった.1952年にほぼ同じ位置で生じたと言われる十勝沖地震の被害も,関東大地震や東南海地震等に比較すれば小さかった.これは逆に言えば,関東大地震や東南海地震等においては(例えマグニチュードが十勝沖地震と同じ程度であっても)大きな被害が生じる可能性も示していると言えるかも知れない.やたらと過大な被害想定をすることが良いとは思わないが,それぞれの地震の「個性」を把握し,「マグニチュード8の地震の被害はあの程度である」と慢心することのないようにしたい.  本報告はあくまで速報である.今後,k-net等による強震記録や詳細な構造物の被害調査に基づき,詳細な検討が行われることと期待される.強震記録の一部には,地盤の損傷等により万全の条件でとられたとは言い難いものもある.しかし,現在の地震学・地震工学の知見では,強震記録より高い信頼性を有する波形を合成することは不可能であることに鑑みるに,これらの観測記録は地震工学にとって高い価値を有するものであるといえる.このような事業が国の事業として整備されている事は非常に高く評価されるべきであろう.また,工学研究者は,これらの記録を有効に役立てていく方法について真剣に考えるべきであろう.
 最後に,本報告の内容は本田の意見であり,被害調査に同行した方々や京都大学防災研究所の見解等では無いことを付記しておく.

謝辞

 本調査においては,1952年十勝沖地震との比較といった観点の提案,当時の資料の収集などにおいて,京都大学防災研究所澤田純男先生の多大なご協力を得た.記して謝意を表する.現地調査においては,同行させていただいた防災科学技術研究所(EDM)の酒井久和氏,京都大学の小野祐輔先生,京都大学大学院の古川愛子さん,後藤浩之さんの協力を得た.これらの方々についても謝意を表する.また,被災地において復興に尽力されている方々や我々の現地での質問等に快く対応していただいた方々にも謝意を表する.

参考文献 :

以上,文責 本田.