(in Japanese)
甚大な自然災害が社会,特に途上国の社会に与える影響は大きい.また,自然災害は不確実性が大きいという難しさも有する.災害対策に関する技術は,巨大な自然災害の影響を完全に防ぐものではない.このため,防災ではなく減災の概念を明示化した概念や手法も用いられる.また,国際社会の災害対応に対する認識の変化もあり,人々の安全性に対する関心が高まるなか,社会や地域の内発的機能の担う役割も増え,コミュニティ(社会も含む.以下同様)の重要性が認識されている.これらのような取り組みは,ある程度までの被災を許容するという性質を有するため,古典的な最適化問題を形成しない.また,巨大自然災害は低頻度であり,その影響は不確実性が大きいため,本質的には確率問題としても定式化しにくい.防災(工)学は,実践の場において,学際的な知見を駆使し,経験主義的な方法論で被災社会のニーズに応えてきている.しかし,大地震や津波,気候変動に伴う巨大な自然災害の危険が広く認識されつつある現在,低頻度巨大自然災害をより精緻に扱う理論的・技術的枠組みも求められる.
これらに鑑み,耐震設計や防災計画の有効性を適切に定量化する手法の開発を試みるため,設計時点や意思決定時点に考慮した情報の多寡に着目し,情報量の概念を導入した体系の構築に関する研究を実施している.対象として設計用入力地震動について行った検討では,想定すべき(無限個の)地震動の集合を対象とし,その集合の有する設計地震動としての情報量を反映させた地震動を合成する手法を提案している.
このような手法を,防災計画の価値や防災投資効果の適切性の定量的な評価へ展開する.都市域を対象とした数値シミュレーションでは,災害対応に関する意志決定基準として,情報の量を用いることの妥当性の検証を進めている.また,防災に比べ未解明な点も多い災害復旧過程を対象としたプロセス分析を行い,成功要因についての知見を蓄積する.これらの知見も用いることで,巨大災害の影響も合理的に考慮して,防災計画等を評価する手法の構築をめざしたい.
援助プロジェクトにおける社会開発分野において,capacity developmentやsocial capital,信頼関係等は地域活動の活性化や持続性の実現のための因子として広く認識されている.近年では,防災や気候変動対応等においても,resilienceやadaptationの概念が導入され,同様の認識が高まっている.これらの効果を正確に把握するためには,コミュニティの集合行動の機能や,形成・持続過程を多面的に考察するとともに,コミュニティの慣習や価値観等を形成する個人レベルでのミクロな行動ルールとの整合性も考慮する必要がある.しかし,途上国での被災コミュニティにおいては,個々人の行動に様々な制約がある場合も少なくない.そのため,個々人の限定合理的な行動の蓄積が,集合行動の合理性につながるメカニズムを実現することが求められる.
防災活動が継続しているコミュニティ,被災地域の行政組織やコミュニティ等を対象に,その対応プロセスの分析を行っている.これらの事例では,社会ネットワークの構造や,個人の利得関数が変化することにより,個人と集合の合理性が整合していない場合においても,個人や集団が環境に適応を繰り返すという過程を経て,コミュニティの合理的な集合行動が実現しうることが示されている.
これらに鑑み,災害や気候変動に対するコミュニティの対応で重要となるresilience の形成や,adaptationの推進過程に適用するための事例分析と理論的検討を進める.これにより,コミュニティの環境適合過程を動学的なメカニズム(ダイナミクス)としてモデル化し,実際のコミュニティや災害対策プロジェクトの評価手法及び被災コミュニティの復旧支援手法の構築に貢献したい.
上記2つの検討を統合させ,途上国等において,社会開発から長期的なインフラ整備までの様々なスケールを考慮した防災対策事業の設計や評価に適用できる手法の構築を夢見ている.