CAUE Hauts-de-Seineインターン(2019.02-07,2019年度修士3年・信夫あゆみ)活動報告

私は2019年現在、国際プロジェクト研究室の修士課程に所属し、社会基盤学専攻とフランス国立土木学校との間の協定プログラムに参加しています。その一環で、2019年2月から7月までの6カ月間、パリの西郊外Nanterre(ナンテール)を拠点とするCAUE Hauts-de-Seine(オードセーヌ)においてインターンをしました。

CAUE (Councils for Architecture, Urbanism and Environment) とは、フランス各県に設置されている公共機関であり、建築・都市・環境分野における水準の向上を目的に、市民や自治体職員からのそれらの分野に関連する相談の受付、カンファレンスの開催や書籍の出版による情報発信、小・中・高校生を対象にした教育ワークショップの実施等を行っています (※1) 。オードセーヌ県のCAUEは教育部門と総合部門からなっており、私がインターンを行った教育部門では、3人の建築家が、年間約50クラスに対して都市の歴史や建築物に関連するワークショップを行っています。

私がインターン中に携わったプロジェクトは、県内のGennevilliers(ジュヌヴィリエ)市南部にあるEdouard Vaillant中学校に隣接する広場の再整備に関するものでした。その広場は当時、中学生の登下校時の滞在場所として主に使われており、またそれらの中学生の広場における振る舞いが問題視されていました。そこで、市役所と中学校の要請により、この広場をより多様な地域住民が利用しやすいものにする再整備案を検討することになりました。

広場の様子(2019年2月1日 筆者撮影)

本プロジェクトではその再整備案を作成するにあたって、中学生や周辺住民を議論に巻き込む参加型の手法が取られました。具体的には、広場の現在の利用状況や将来像についての関係者へのインタビュー、それに基づいた複数の広場の空間利用案に関する議論、その結果を視覚化する広場の地面へのペイント、実寸大模型を用いたプロトタイピング等を実施しました。特にプロトタイピングの段階では、中学生とスチレンボード製の5種類のブロックを作成し、それを用いて広場に置くベンチやテーブルなどのプロトタイプを作成、その後イベントを開催して地域の方に実際にそれらを試してもらい、フィードバックをもらう機会を設けました。最後には、これらのワークショップを通じて出た意見やアイディアをとりまとめ、市役所に再整備の提案を行いました。

イベントの様子(2019年7月1日 筆者撮影)

国際プロジェクト研究室が対象とする国際開発分野においては、本プロジェクトに類似した手法として「参加型開発」があります。例えば、JICAは参加型開発を「開発援助の実効性や持続性を高めるために[…] 、開発の受益者となる地域住民が開発の意思決定プロセスに参加することが重要で、その結果、より公平に恩恵を受けることができるという考え方」 (※2) と定義しています。今回のプロジェクトは公共空間の整備に関するものでしたが、整備の実効性・持続性を高めるために、整備の受益者となる中学生や周辺住民が意思決定のプロセスの一部に参加するという点が共通していると考えられます。一方で相違点としては、JICAはプロジェクトの恩恵の公平な受給を重視しているのに対し、本プロジェクトではそれに加えて中学生への建築・都市教育が重要な目的となっていた点が挙げられると考えられます。

フランスの公共空間整備プロジェクトにおける住民参加の手法を現場で学んだことで、国際開発分野における参加型開発プロジェクトの様子を具体的に想像できるようになり、本分野への視座を少し高めることに繋がりました。

2019年11月16日 国際プロジェクト研究室修士課程 信夫あゆみ

※1 : Fédération Nationale des Conseils d’Architecture, d’Urbanisme et de l’Environnement, « What is a Council for Architecture, Urbanism and Environment (CAUE) ? », https://www.fncaue.com/the-caue-english/ (2019年11月5日閲覧)
※2 : 独立行政法人国際協力機構 (JICA), 「開発援助・JICA関連用語」, 2008,
https://www.jica.go.jp/about/report/2008/pdf/ann2008_150.pdf (2019年10月29日閲覧)